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”Win deep”人生を深く勝つ – WOMEN’S RUGBY COMMUNITY

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パラキゆき選手

ながとブルーエンジェルス 所属

女子セブンズの日本一を決める大会「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ(以下、「太陽生命シリーズ」と表記)」の総合優勝3連覇を狙う山口県長門市の「ながとブルーエンジェルス」。チームのキャプテンを務めるパラキゆき選手は、日本人だが生まれも育ちもニュージーランド。英語・日本語の両方を流ちょうに話す。幼少期からバレーボールやネットボール※など、さまざまなスポーツに親しみ、本格的にラグビーをはじめたのは、意外にも大学生になってから。マヌカウ(現・オークランド)のクラブチーム・アードモアマリストに所属し、州代表にも選出された。2017年秋に来日以来、日本でラグビーをプレーするパラキゆき選手にインタビューしながら、ニュージーランドと日本のラグビーのカルチャーの違いやラグビーへの想い、女子ラグビー選手としてのストーリーを紐解いていきました。

チームの中で託された役割

山口県の北側、日本海に面した長門市、その豊かな自然と美しい景色で風景写真の題材となることも多い。大通りから住宅地に入ると突如、現れるオシャレなカフェスペース「SweetAs(スイートアズ)」、ここに「ながとブルーエンジェルス」の拠点がある。

カフェに併設された2階建てのトレーニングジム兼事務所。コロナ渦のある朝、チーム隔離のレギュレーションに従い、社会人選手たち数人は会社からデスクトップのPCを2階の事務所のダイニングスペースに持ち込み、真剣な眼差しで仕事をしていた。1階のトレーニングジムを覗くと、パラキ選手はじめ、外国人の選手や大学生の選手たちがフィジカルトレーニングをしている。チームには働きながら活動する社会人選手や大学生、外国人のプロ選手などさまざまな選手がいる。

来日した2017年秋から、プロの女子ラグビー選手として活動するパラキ選手。チームをまとめるキャプテンそして、海外から来たコーチや選手たちの通訳、チーム内のコミュニケーションの橋渡し役をする。彼女に託された役割は決して少なくない。

「私の仕事は、チームをまとめること、前からリードすること。それはプレーの中でもオフフィールドでも。仕事を終えて疲れて練習にくる子たちもいるから、私は声を出してみんなをリフトアップする、それがプロとしての責任。私は何も言い訳ができないから。これは他の外国人の選手たちともよく話します。先輩や後輩、キャリアや国籍といった垣根を持たず、自分たちができることを考えてやる、私たちはみんなイーブンです」。

2020年1月下旬、新型コロナウイルス感染症の影響で、主力の外国人選手のほとんどが入国できないことが決まり、チームに重い空気が流れ始めた頃、15人制の代表合宿に召集されていたパラキ選手はアキレス腱を断裂、4月からスタートする太陽生命の出場が絶望的となった。

「ジョージさんごめんなさい、太陽生命、出れなくなってしまいました。でも、私がチーム にできることはなんでもやります。そして、来年 10 月の W 杯前には必ず復帰します。まだ諦めていません」。

連絡を受けた村杉徐司ハイパフォーマンスディレクターは、彼女の言葉に励まされたという。チームに残るメンバーをすぐに集め、ミーティングをした。

「アキレス腱を断裂したゆきがまだあきらめないと言っている。俺たちが諦めてどうする。必ず、このメンバーで太陽生命を総合優勝しよう」。

一番苦しいはずのパラキ選手の力強い言葉がチームを一つにした。この年の太陽生命シリーズ、「ながとブルーエンジェルス」は、パラキ選手含め10人で総合優勝を成し遂げ2連覇を達成した。

ライフワークバランスの大切さとチームカルチャー

大学生の時、友人の勧めで始めたタッチラグビーにハマり、卒業後は、体育の教師として働きながらクラブチームでラグビーをしていたパラキ選手。朝4時からジムでトレーニングして出勤、夕方5時に仕事が終わると、またトレーニング、それが日常だった。ラグビーも仕事も大好きだったから、きついという感覚はなかったと笑う。日本の選手たちは真面目で、ハードワークをきっちりこなす一面、ラグビーだけにのめり込みすぎて、苦しんでいるように見えることがあるという。

「ラグビーが大好きで、そこだけにフォーカスするのは悪くないし大事なこと。でも、自分の中で大切なものは何か、考えながら整理しておくといい。ラグビーが上手くいかなかったら人生がネガティブだと感じるのは違うから。”Don’t put all your eggs in one basket.”(卵は一つのバスケットに入れないで)ということわざがあります。家族・友だち・母国・昔の同僚・リハビリ・ラグビー・・・私には色々なバスケットがあって、タイミングで持っている卵を入れるバランスを変えていく。一つのバスケットに卵を全部入れてしまうとそのバスケットが壊れたら卵は全滅してしまうけど、分けておけば自分の持っている卵が全部割れることはないんです。私はちょっと前までは怪我をしていたから、リハビリのバスケットにたくさん卵が入っていたけど、復帰した今は、その卵をラグビーのバスケットの一つずつ移していっています」。

現在はプロとして活躍し、ラグビーに専念するパラキ選手だが、ライフワークバランスの大切さも自らの経験やストーリーをシェアすることでチームのメンバーに伝えていきたいと話す。プライベートでは昨年、9年間付き合っていたパートナー・モナさんと結婚、元ラグビー選手のモナさんは来日し、チームでコーチングを担当している。

「私とモナは、自分たちがヘルシーで、オープンでオネスト(正直)な関係性でいたら、例えグラウンドで意見の違いがあっても、2人のコアがオッケーだから人生はハッピーだよね。とよく話します。もちろん、ニュージーランドと日本で離れて暮らしていたときはコミュニケーションがうまくいかず、ケンカをしたこともあったけど(笑)」。

チームにおいてもオープンコミュニケーションが大事だという。年齢・国籍・キャリア、そしてバックグラウンドが異なる選手たちが同じチームで、同じ目標に向かってプレーするために、感じた違和感や要望を、解決策を持って伝えること、オンフィールドもオフフィールドも一緒に楽しむこと、パラキ選手は今、そんなチームカルチャーを構築している。

人生の中にラグビーがあるということ

ラグビー大国・ニュージーランドでは、ナショナルスポーツということもあって多くの人たちがラグビーに熱心だ。パラキ選手自身も小さいころからラグビーを見ていたし、いとこたちと庭で遊ぶのは決まってラグビーだった。もちろん代表や州代表になって活躍する、と夢を持つ人も多く、彼女もその一人だが、それ以前にラグビーは楽しいもの、楽しむものという意識が強いという。

一方で、世界に先んじて日本がパイオニアになっている部分もある。例えば、15人制がメインでセブンズのシーズンが短いニュージーランドには「太陽生命シリーズ」のような女子セブンズのサーキット大会はないし、プロ選手として活躍する選手はトップのほんの一握りの選手だけ。ニュージーランドの友人に今のパラキ選手の環境を伝えると、うらやましがられるという。

「小さいころにラグビーに誘われた時、ネガティブなイメージを持った記憶があって。今は筋肉がついてヘルシーな女性が素敵だよ、って価値観になってきたからいいなと思う。女子ラグビーは、”Strong women Smart women”(強くて、賢い)そんなイメージ。ラグビーは世界中でできるスポーツだからそれでコネクション(繋がっていける)。色んな人にも会えるし、みんなの経験も習える。それが素晴らしいな」。

パラキ選手自身も色々なスポーツ経験やキャリアを積みながらラグビーを続けている1人だが、多様なキャリアやカルチャーを持つ選手が1つのチームに混ざり合うのも女子ラグビーの魅力だ。ラグビーを通して、様々な価値観や経験に出会いながら繋がっていく、そして時にそれがチームのカルチャーとなって積み重ねられていくこともある。

2017年秋に立ち上がった「ながとブルーエンジェルス」。ニュージーランドなど強豪国の外国人の選手も多く、代表クラスの経験者も擁していた。最初の太陽生命シリーズのコアチームへの昇格試合、石見智翠高校にまさかの敗戦。強豪国の代表を経験した選手たちが日本の高校生チームに負ける、彼女たちのプライドは相当ボロボロだろう、と村杉徐司ハイパフォーマンスディレクターは当時を振り返る。

しかし、パラキ選手はじめ、選手たちはふてくされることもなく、前を向いて相手選手を称え、応援に来てくれた人たちに頭を下げた。この時の敗戦と選手たちの態度・姿勢が今のチームの原点となって、受け継がれている。

「”Win deep”人生を深く勝つ」

パラキ選手が大事にしている価値観だ。朝のトレーニングの前に少しだけ早く起きて、30分読書をする、そんな自分との小さな約束事も一つのWin、でも、すべてに勝ち続けることは難しい、負けてしまうこともある。

 
「人生は短いから、その瞬間を生きる」

  
怖さや不安としっかり向き合う、辛くても短い人生の中でその一瞬だけだからと考えるそう。どうすれば不安を解消できるかプロセスを考え、納得したらその不安を捨てて次に目を向ける。人生のさまざまな場面での小さな勝ちを積み重ねて深く勝っていく、目の前の試合の勝ち負けだけが勝負ではないんです、とパラキ選手は話す。

大好きなラグビー、積み重ねてきたキャリアやプライベート、他にも大事にしたいことがいくつもあって、そのバランスはどんどん変化していくけれど、自分と向き合って調整しながら”Win deep”していく、人生の中にラグビーがある、そんな風にパラキ選手はグラウンドに立っている。

パラキゆきさんインタビュー

※ネットボール:イギリス発祥、女性向けに誕生したバスケットボールに似た競技。

取材協力:山口県長門市7人制女子ラグビーチーム ながとブルーエンジェルス
写真・文:WOMEN'S RUGBY COMMUNITY TEAM
 
HERSTORY:
 
女子ラグビー選手や女子ラグビーを支える魅力的な彼女(HER)たちが
積み重ねてきたバックグラウンドやその想いをインタビュー、ストーリーとして発信します。