
黒木 理帆さん(現・落 理帆さん)
元ラグビー日本代表
昨年の国際女性デー。
元女子ラグビー日本代表の黒木 理帆さん(現・落 理帆さん)は、WOMEN‘S RUGBY COMMUNITYの記事で「女性アスリートとして体と向き合うことの大切さ」をテーマに自身の経験を語っていただいた。引退→結婚→妊娠→出産。絵に描いたようなストーリーだが、そこにはさまざまな葛藤と後悔、そして喜びがあった。今だからこそ伝えられる現役アスリートへ。そして未来の私たちへ。彼女の現在地を聞いた。
母になった元女子ラグビー日本代表が語る、体と心に向き合う大切さ
母としての新生活
あれから一年。
彼女の人生には、大きな変化があった。
2026年1月5日、第一子となる女の子を出産。
現在は生後2か月の娘とともに、実家で子育ての日々を送っている。
「想像していたより余裕があります」
そう笑って話す。
「よく寝てくれるんです。夜9時過ぎに寝て、朝8時半くらいまで。夜中に2回ミルクで起きるくらいですね」
まだ始まったばかりの母としての生活。
少しずつ、新しいリズムができてきている。
妊娠がわかったあとも続けた仕事とラグビーコーチ
昨年のインタビューの後、理帆さんは妊娠がわかった。
それでもすぐに生活を大きく変えたわけではなかった。
仕事も、ラグビーコーチも続けていた。
パート勤務は週5から週4に。
1日8時間の勤務も、午前中4時間に短縮した。
「体を使う仕事だったので、接客や事務を中心にしてもらいました」
平日は仕事。
週末はラグビーのコーチ。
忙しい日々ではあったが、充実していたという。
仕事は妊娠8か月で退職。
コーチは妊娠7か月まで続けた。

「嬉しい気持ちはもちろんありました。でも仕事も好きだったので、辞めるときは少し寂しかったですね」
一方で、コーチとしては大会が終わったタイミングでもあった。
「やるべきところまではやり切ったという気持ちはありました」
「合宿よりきつかった」43時間の出産

出産は想像以上だった。
分娩時間は43時間。
丸2日かかった。
「アスリートだから早いんじゃないかと思っていたんです」
ラグビーの合宿よりもきついことはない。
そう思っていた。
だが、実際は違った。
「もう全然違いました。比べものにならないくらいきつかったです」
ほとんど眠れないまま迎えた最後の瞬間。
医師が来る前に、助産師の手で娘が誕生した。
「2日かかって最後にそのパワーが出せるのはすごい、さすがアスリートだねって言われました」
生まれた瞬間は涙が出るほどの余裕はなかった。
「必死すぎて。でも“こんなに幸せなことなんだ”って思いました」
立ち会った夫も、ほとんど眠らずそばで見守っていた。
「立ち会えてよかった。これからもっと大事にしようと思った」その言葉を聞いたとき、理帆さんの胸にも安堵が広がった。
妊娠までの一年

妊娠が分かるまでには、一年間の妊活期間があった。
「授かりものだと思っていました。でもやっぱり、カレンダーを追ってしまうんです」
排卵日、次の周期。
頭の中ではいつも計算していた。
周囲の何気ない言葉に、心が揺れることもあった。
「子どもの話題をされると、ちょっと辛い時もありました」
転機になったのは、排卵日の考え方を変えたことだった。
アプリのカレンダー通りではなく、タイミングを少しずらしてみた。
その月、妊娠がわかった。「信じられなくて。夫と二人で泣いて喜びました」
アスリートだった体、母になった体
ラグビー選手時代、落さんは体重を増やすために食事にトレーニングに励んでいた。しかし妊娠では簡単に13キロ増えた。
「こんなに体重が簡単に増えるんだって驚きました」
骨盤が開き、体のラインも変わった。
「お尻が横に広くなった感じがして、最初は戸惑いました」
出産後は、別の変化も感じている。
「抱っこをしているとアライメントが崩れるんです。片側ばかりだと腰や肩が痛くなる」
アスリートとして体と向き合ってきた経験は、今の生活でも役立っている。
「スクワットをするときも、膝の向きを意識したりしています」
将来については、少しだけ考えていることもある。「父が私のラグビーの試合をほとんど見たことがなくて。来年宮崎で国体があるので挑戦する機会があればやってみたいと思ったりもします」
女子アスリートに伝えたいこと
現役時代を振り返り、理帆さんはこう話す。
「ラグビーだけが人生ではないと思うんです」
女子ラグビーの選手たちは、競技に全力で向き合う。
その分、長い目で自分の人生を考えることは簡単ではない。

「私自身も、ラグビー中心の生活でした」
セブンズと15人制のシーズンが続き、1年はあっという間に過ぎる。
自分の体のことをゆっくり考える時間は、決して多くなかった。
だからこそ、今の選手たちにはこう伝えたいという。
「ときには立ち止まって、自分の体のことを考える時間を作ってほしいです」
婦人科に行くこと。
自分の体の状態を知ること。「自分は体のことを知るのが少し遅かったなと思うので」
想像していた未来
母になった今、人生は新しいステージに進んでいる。
「ラグビーはやり切ったと思っています」
これからは、夫を支えながら子どもの成長を見守る時間になる。
「いろんなことに挑戦する子になってほしいです」
習い事もたくさんさせて、選択肢を増やしてあげたい。
もしスポーツを選ぶなら、全力でサポートしたいという。
コーチとして、女子ラグビーに関わり続けたい気持ちもある。
「できなかったことができるようになる。その成長を見るのがすごく楽しいんです」
インタビューの最後、これまでの人生を振り返ってもらった。
すると、理帆さんは穏やかな表情でこう話した。
「ちゃんと、自分が想像していた未来になっているなと思います」
妊活の不安も、出産の苦しさも。
そのすべてを越えて、今がある。
「どこを振り返っても、結果は幸せです」
ラグビーで培った強さは、
母としての人生の中でも、確かに息づいている。

取材:鈴木 彩香
編集:WOMEN’S RUGBY COMMUNITY TEAM