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人間万事塞翁が馬 vol.3 – WOMEN’S RUGBY COMMUNITY

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冨田真紀子さん

アザレア・セブン / Lons Section Paloise Rugby Féminin / 株式会社フジテレビジョン 所属

日本を代表する選手として様々な経験をしてきた冨田選手の特別コラム。タイトルの「人間万事塞翁が馬」は、中国の書籍からきていることわざでアンラッキーなこともラッキーなことかもしれないし、その逆も然り。というような意味がある言葉だそうです。VOL.3では、2017年のワールドカップでのレッドカード、その後の冨田選手の決断から衝撃的な出会い、そこで感じた彼女のラグビーへの想いをつづった「ギフト」がテーマです。

ギフト

ラグビーワールドカップ2021が終わった。ホームのニュージーランドが優勝。

下馬評をひっくり返す番狂わせの80分。イングランドは前半15分、レッドカード。相手のニュージーランドの選手は脳震盪で交代。

テレビで観ている側も、のどから血の味がするような激しい戦い。まさに、女子ラグビー最高峰の決勝だった。

さて、今大会を通し各国は次に向けて今からどのように準備するのだろうか。またこの経験を、選手それぞれが、これからの人生にどう活かしていくのだろうか。

今回は、私が2017年のワールドカップを経験し、その後決断していったことを振り返る。このコラムが誰かのなにかのきっかけになれたらと願うが、必ずしもこの決断が正解ではない。ただ、一つの選択肢だったという事実だけだ。

ワールドカップ=レッドカード

フランス=レッドカード

私の頭の中のワールドカップの記憶は、レッドカード。

そんな自分の記憶を変えたかった。上書きがしたかった。

だけど、またワールドカップという大舞台だけに焦点を当てたら、頭がおかしくなりそうだった。「点」だけを目指すのはやめた。

だからレッドカードをもらった国、フランスで、ラグビーをしようと思った。

2021年、私はフランスへ、新しい記憶・・・思い出を探しに行った。

トゥールーズから2時間の南西部、ポーという拠点でラグビーをしに。

フランス語もゼロ。知り合いもゼロ。何もかもが新鮮だった。

やっと生活に慣れてきたシーズンの途中でヘッドコーチが退任する事態が起きた。

練習メニューも、自分たちで考える。しかも試合もある。メンバーはどうする?やばい。

そして、新しいヘッドコーチが就任した。

新しいヘッドコーチは、なんと、私がワールドカップ2017で苦い思いをしたフランス代表の、トイメン12番の選手だった。

2017年のワールドカップ後、彼女は現役を引退し、

モンペリエという強豪クラブから、地元であるポーに戻ってきていた。U20フランス代表でバックスコーチを務めている彼女が、ヘッドコーチになった。

さすがに鳥肌が立った。

リオ五輪で脳震盪、ワールドカップでレッドカード。

私はなんでこんなに大舞台に弱いんだ。何回失敗したら学ぶんだろう。

自分に飽き飽きした。恩返しなんてできたことない。

ラグビーをやめたら、この呪縛から解き放たれるだろうと思った。

やめようと、何万回も思った。周りにもよく言われた。ようラグビーしてんな、と。

でも、知らない異国にきたら、運命的なヘッドコーチとの出逢い。

あぁ、このための、レッドカードだったんだ。

「点」でしかなかったワールドカップが、「線」のように繋がった瞬間だった。

きっとこういう瞬間があるから、ラグビーをやめられないんだと思う。

続けていたら、ラグビーの神様が、ギフトをくれるから。

2017年W杯フランス代表との写真(左:私 右:現ヘッドコーチ)

大舞台で経験すること、ワールドカップを通して経験すること、

目の前のことを一所懸命に生きていたら、きっとその点もいつか線に繋がるのだろう。

女子日本代表はワールドカップで悔しくも全敗だったが、この苦しい「点」は、いつか繋がるに違いない。


まさに塞翁が馬。

苦しいことが起きているということは、何か善いことが起きる前触れかもしれない。レッドカードのおかげで、私の人生はより豊かになったと胸を張って言えるからだ。

今回の『ラグビーワールドカップ2021』をただ悔しい経験として捉えるのではなく、女子ラグビー界全体が、どう考え、どう決断し、どう行動していくか。

私も発展していく女子ラグビーのチカラになりたい。そのために、今私は、フランスで、楕円球を追いかける。

文:冨田真紀子