この記事をシェア!

冨田真紀子さん

アザレア・セブン / Lons Section Paloise Rugby Féminin / 株式会社フジテレビジョン 所属

日本を代表する選手として様々な経験をしてきた冨田選手の特別コラム。タイトルの「人間万事塞翁が馬」は、中国の書籍からきていることわざでアンラッキーなこともラッキーなことかもしれないし、その逆も然り。というような意味がある言葉だそうです。VOL.5では、フランスのクラブチームで出場したチャンピオンシップの試合で痛めた膝の手術からリハビリ、自分で立てた目標をモチベーションに前に進む彼女の想いや気持ちの揺らぎをつづった「父と母がホームスタジアムに」がテーマです。

父と母がホームスタジアムに

フランスでは、日中はフルタイムで働き、夜19時からラグビーする生活をしている。なかなかゆっくりできる日はない。

無理したくないしできるだけ自分を労わりたいけど、

だからといって疲労で仕事やラグビーを休みたくはない。

今はきっと踏ん張り時の時期なんだと思いながら、必死に生きているフランス生活2年目。

そんな私は2月、トウルーズと対戦したチャンピオンシップの試合で、前半タックルを受けて膝を痛めた。ハーフタイムにテーピングを巻いてもらい、後半も続けたが、またダブルタックルを受けてからは、歩くたびに膝がバキバキなる ACL(前十字靭帯断裂)じゃない気はしたけど、不安だったので後半途中で試合を後にした。

MRI の検査もしてドクターに見てもらったら半血板が引っかかっていると。しかも軟骨もやられてると。

もともと ACL も再腱している膝だから、即オペ。

ドクターには

If you were my daughter, I would make you stop playing rugby.

(もしあなたが私の娘だったら、ラグビーするのをやめさせている)

と言われた。

まあそりゃあ冷静に考えてもよくラグビーしとるわいって思った。

確かに自分の子どもがこんな状況だったら、そりゃあ私も止めるかもなと思った。

でも、このまま引退なんてかっこ悪い気がした。怪我で終わりたくはない。

シーズンを戦い抜きたい。

シーズンが終わってから、後のことは考えよう。まずは仕方ない、メスを入れよう。

膝をオペしてもらう当日は歩いて病院に行き、オペの全身麻酔から目を覚まして1時間後には、歩いて家に帰ってきた。こうして、私のリハビリが始まった。

私が復帰できそうなのは、一体いつだろう。

ドクターやフィジオの意見をしっかり聞いて、ターゲットを自分で立てた。

  

5月14日(日)レンヌとの試合。

なんでかというと、毎年ガチライバルの、強豪相手だから。

TOP8のトーナメントに進められるか決まる試合だから。

そして大切な大切なホーム戦だから。

その試合で、復帰することを、目標にした。

 

だけど、今まで通りのモチベーションではこの難関を越えられない気がした。

31歳で手術を後にしたら、そりゃあいろんな感情が頭をグルグルさせる。

もしかしたら、これでラグビー最後なのかな?今後のことは私にもわからない。

とりあえず、自分が頑張れる目標がほしい。一番大切なのはモチベーションだと思った。

 

誰かが決めたオリンピックや、ワールドカップという4年に1度ではなく、自分で定める一生に一回の目標。まさに自分との約束。言い訳はできない。

その方がとても意味がある気がした。

 

そう思ったときに、復帰戦に、フランスに、両親に来てもらおうと思った。

すぐに両親に来てもらえるか日程の打診をした。

 

ゴールデンウイーク中でもないから、休みを取れない。(両親共働き)

でも、週末に間に合うように調整するよって応えてくれた。

すぐにネットでチケットを2枚分購入した。

 

そうか、父と母がホームスタジアムにいるのか。

試合中に、『マコー!』って聞こえるのかな。

両親に頑張ってきてもらったリオ五輪は、脳震盪で、私は初日に選手村退村。

せっかくきてもらったのに、申し訳なかった。

だから、今回両親が来てくれると想像しただけで、感極まってくる。

 

この目標は、きつくて長く感じる毎日のリハビリに小さな光を与えてくれる気がした。

 

もちろん膝が大事だから無理はしないし、もし間に合わなければ仕方ない。

でもできるだけ、自分の時間を復帰に向けて投資したいと思った。

 

フランスにはCERSという、リハビリセンターがある。ドクターに行くことを勧められた。

国立スポーツ科学センターのような、スポーツリハビリセンターのような施設。泊まり込みで朝から晩までリハビリとトレーニングを行う。日本とは違ってアスリートもいれば、アマチュアの人もいる。怪我をした人はここでリハビリできるようなシステムになっている。

 

まずは職場に交渉し、有難いことに快諾してくれた。

CERSに入るための大量のドキュメントを提出し、3週間のリハビリ合宿が、始まった。

 

現在リハビリ合宿が終わり、ポーに帰ってきたが、思った以上に調子は良くない。

自分の今までの膝と全然違う。

ラグビーできるようになるかな。

間に合うかな。

 

でも、チャレンジする。自分と約束した、5月14日のために。

文:冨田真紀子